【 貨物運送業 】 コンプライアンスの時代を乗り越えて

――最近のこと。
 ご近所の長いおつき合いの社長が半年ぶりに突然(いつもそうなのだが)事務所にやってこられて、こう切りだされた。
(社長)「有名メーカーから、検品と梱包の仕事をやらないかと云う話が来ましてね。どうしたものかと・・・」

 私は、一瞬反省の念に苛まれました。長いお付き合いなのに、事業の中身をお尋ねしたことがなかったのかと。許認可申請の押し売りになってもと考えていたのか。いつも、事後対策のようなことばかり請け負ってきたせいか。ひと呼吸し、こんな話を始めました。

(書士)「運送業はかれこれ20年、運賃は上がらず、逆に下がりつづけているのが現実ですよね。 Nox対策の車両買換、燃料費の高騰等々が追い打ちとなって、息子さんがいても事業承継を諦めた会社もたくさんあります。 本当に、皆さん、よくやってこられたものだと思いますよ。」

(社長)「まあ、そのとおりです。うちは娘ばかりで、もう、嫁いでますから、それはいいんですけどね。何度か、止めようと考えたことはありますが、いっしょにやってきた、もういい歳の従業員らのことを考えたら、続けなあかんと」

(書士)「いや、今度の話はおもしろいじゃないでか」と切りだして、社長から相手メーカーの担当者の話を詳しくお聴きすることにした。そして、色々とお尋ねし、おおむね理解し終わるや、こう申し上げた。
 「何でもやりますよと早期に明快に返事をしておくこと」
 「定款の目的を至急変更すること」
 そして、作業場の確保、場所の賃貸借契約、作業請負契約の考え方について説明し、その後また、運送業、とりわけ中小の運送業者が一般にこの間やってこられたことを話続けました。

(書士)「ある程度の規模の運送会社は、荷主の確保、荷主の出荷業務の取り込みを狙って、運送事業の一時保管施設の拡充から倉庫施設、倉庫業への事業拡張を図って来たんですがね、小規模な事業者は、荷主からの要望で、出荷貨物を先に預かってもらえないか、出荷の手伝いもしてくれないか、工場に作業員を派遣してもらえないかと云った次から次へと依頼を受け、場所提供や請負作業の正式な契約書もないままにやって来た、やらされて来たと云う物流合理化の末端の現場の姿があったと思うんです。そして、偽装請負の問題が生じた時には、急に派遣業の許可、特定労働者派遣の届出をしてくれと言われたり、梱包材やパレットの廃棄を頼まれていた運送業者が産廃の収集運搬の許可を取ってくれと言われたり、いつも、受け身でいるもんですから、まあ、しゃにむの業務多角化を余儀なくされてきたと云う思いでいた事業者の方が多かったんじゃないでしょうか。ちゃんとした料金をもらってないと云う気持ちも強いですからねえ。」

(社長)「定款の変更と契約書については分かりました。次にどう考えていったらいいですかね。倉庫業もやっていくと。」

(書士)「いや、倉庫業の施設要件は相当ハードルが高いですよ。賃借倉庫でも登録は可能ですが、これは次のステップと云うことでいいじゃないですか。とにかく、主体的でいなくっちゃと思いますよ。そう、作業請負にしても、内容をよく分析して、工程表、時間分析をやって、ちゃんと原価を明確にしないと相手とまともな交渉もできないですからね。先ず、この検討をしないと。」―――私は、特定労働者派遣業の話もしたくなったところ、

(社長)「いや、今日は寄せてもらって、頭がすっきりしました。今度はうちの総務部長を連れてきますんで、また、時間をとってください。頼んます。」と申されるや、ご自分もシフトに入っておられるのだろうか、携帯を握り、何か独り言を発せられるや、事務所を後にされました。



 社長が去って、半年前の用件が、日報記入の不備、社会保険の部分未加入等の巡回指導での指摘事項を数ヶ月そのままにしていたら、運輸支局長からの「改善指導書」が送られて来たと云うものだったことを想い出しました。

 とにかく、「走れ!走れ!〇〇〇のトラック」の時代は終わりました。運送業をするからには、運行管理者の国家試験の範囲とレベル程度は、役員、管理職全員が周知していなければならない時代、法令と運行の現場が相違していることが許されない時代に入ったと云うことです。

 管理コスト、社会保険負担コストの増大が経営にとって相当な重圧です。これに対しては、管理の統合、逆に適正管理規模による分離と云ったその会社の現状を分析した上での根本的な施策も前提条件となってくることが考えられます。
 また、業務請負業、特定労働者派遣業、倉庫業、倉庫管理請負業、産業廃棄物収集運搬業と云った関連事業についても、正しい知識に基づく適正な運営を前提にした関連事業化、主体的な業務多角化が改めて求められていると思うのです。

 シンドイことですが、これらをやり抜いていく会社だけが残っていく時代なのです。
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